冬庭の音符/そらの珊瑚
冬庭は音符を奏でる
花の終わった残骸は
案外気難しく
やっと植木鉢から引き抜けば
無数にめぐらせた白い根は
持てるかぎりの土をかかえこんでいる
ああ うたはここからも
うまれてきているのだと
色が失われてゆく季節の中でも
はなみずきが
ぽつる、ぽつり
小さな赤い実をつけている
少し凍えた指に息をはく
舞台のそで
グランドピアノまで数歩のところで
覚えたはずの音符をことごとく
忘れてしまったような
誰にももう頼れない
ああ ひとりだという心細さが
一歩を踏み出そうとするこの足先に
ひたひたとおしよせてきて
どこへも根を張れずに生きている自分というものに
せめてこの身が産みだした
あたたかい息を
ひゅぅと吹きかけてみる
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