看取り(1/3)/吉岡ペペロ
のこと?それはふたをしたままだ。幸福?でもいまのこの看取りという仕事にぼくは喜びを感じることが出来なかった。妻はどうしているのだろう。思考のながれで妻のことを思い出した。
妻は日本人だった。
妻は息子の保育所が決まると突然姿を消した。彼女の荷物が全てなくなっていた。妻の家族のことをぼくは知らなかった。ぼくを見せたくなかったのかも知れない。
ぼく自身もそうだったからそれは仕方のないことだと思っていた。それよりも妻のおかげでぼくは日本で働けている。彼女はぼくに息子までくれた。ほんとうにそう思っている。
祖国の家族たちはぼくが日本の病院で働いていると喜んでいた。でも老人ホームは病院ではない。息子がいることも知らない。
道先の郵便ポストが外灯に照らされていた。
「お父さん、あしたはミトリの日だね」息子がぼくの指をいっぽんにぎって揺らした。
「あした、公園に連れてってよ」
ぼくの指をいっぽん揺らすとき、彼は普段の我慢を口にする。
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