ヤヲビクニ/智鶴
 
った時代
涙と呼ぶには醜すぎる
朱く濁った月が浮かんでいた

何かを手に入れたかった訳じゃない
誰かが変わらないでと優しく囁いたから
有りっ丈の想いでそう祈った
そうしたら
いつの間にか誰もいなくなってしまった

夕焼けの朱も、夜の漆黒も
忘れた頃には真っ白な意識
錆びた感覚が動き出して
また心臓が奏でる夢を見た
余りにも長く此処にいるから
自分が何だったのかも忘れてしまいそう

寂しかった気がする
空を鳥が群れを成して飛んでいた
見上げた空がどんな色をしていたのかは
もう覚えていないけど
それは、まだ私が人間だった頃の
昔々のお伽噺

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