ヤヲビクニ/智鶴
今更と呆れ乍らも
漸く手に入れた身体は冷たくて
虚無感と怠惰な溜息で
堕ちていくのを眺めていた
私以外に、誰かが居たのは
途方も無く過去の物語
忘れていたことも忘れるほど
昔々のお伽噺
いつまでも美しくなんて嘯くから
いつまでも届かない筈の掌に触れた
変わりたくない私は
死んだ命がどれだけ尊くて
怖しいかも知らずに口にした
今もずっと此処にいるのに
懐かしい誰かの背中が、匂いが消える
雨の中
この指が寂しいと描いたのは
まだ隣に誰かが居た時代
暗くて広くて寒いばかりの
砂漠の静けさにも慣れてしまった
この頬が哀しみを感じたのは
まだ世界に夜があった
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