爪/はるな
きもある。あるけど、でもやっぱり捨てることはできないなとも思うのだ。あたしの目の色を、父はママによく似ているといって賞賛する。手足がながくて力強いのもママ譲りだって。ママ譲りってことは、やっぱりあたしも自分のすがたを捨てるくらいの気持を持つことになるんだろうか。そうしてそれを幸せだって言うのかな。ママが幸せだったのは、父と同じベッドに寝られるようになったからなのかな。そうじゃなくて、自分の思い通りにできたってことがただ嬉しかったんじゃないかしらと思う。たったひとりの誰かを見つけるのと、たった一人で格好いい毛並をなびかせるのと、どっちがあたしに向いているだろう。あした起きてたら、あたしの爪もママのあの爪みたいになっていないかな。そしたらきっと、あたしはこの窓枠を蹴とばして、森で朽ちてるはずのママの亡骸を掘り起こしに行くんだ。
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