爪/はるな
ママがむかしつややかな毛並ととがった爪とひきかえに愛を得た話を父から聞くたびにあたしはみょうな気持になる、その結果としてあたしは生まれてママは死んだのだ。つまりあたしはママの毛並と爪とひきかえということになる。ママのむかしの写真を見たことがあるけどそれはもううっとりするような毛並だった、なめらかでひかっていて、気持ちよさそうに風になびいて。爪は実物を見せてもらったことがある(そのときに爪はばらばらと足元に落ちていたんだそう)、やっぱり力強くて素敵だった。
爪のことはじつは父との秘密だ、ママはその時の自分のすがたをあまり好きじゃなかった。変わってからママはずっと幸せだと口にしていたそうだ、父と
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