あんぐれら/ただのみきや
 
誰かを磔にしたまま錨は静かに沈む
 泥めく夢の奥深く月の眼裏火星の臓腑まで
黒々と千切られた花嫁が吹かぬ風に嬲られる
 カモメたちは歓喜と嘆きをただ一節で歌った
私刑による死刑のための詩形おまえは言葉の焼石

 熾火がすべて灰になり人は無に囚われる
浅瀬もなくただ己の中に座礁した水夫たち
 時は抽象画のように見る者を停止させる
主役を奪われ脇役にすらなれず観客のまま
 ページの向こうが裏表紙であることに唖然として

時々記憶が戻ったかのように点滅すると
 尖った思考が遠く流されて往くのが見える
その水面下は氷漬けになった巨大な腫瘍
 かつて幼子は浜に上がった母のぬかる
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