ひとつ 曳光/木立 悟
太陽のようにほどける髪が
小さな鈴の樹を隠している
地から昇るたくさんの音が
空に晴れを運び込む
虫から生まれる滴が
霧のなかの径を見ている
銀の歪みに映る
碧い碧い一本の糸
骨を運ぶ巨大な船が
夕べの港を離れゆく
街を隔てる橋
誰も通らない橋
岩が岩の楽器を吹き
くちびるから血を流し稲妻を見ている
川の行き着く先
鳴らない午後
突然照らされる枝と葉が
花火のように現われては消え
音の無い浪をひらいては
崖に途絶える望みを記す
日の終わりの光のなかに
幾度も幾度も架かる虹
丘の上の
動かぬ影を動かしてゆく
入る船 出る船を鬼火は囲み
浜辺を長い影だけがゆく
鈴の樹は遠い夜を呼び
夜はさらに夜を呼ぶ
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