いくらか体重を軽くして渡す/末下りょう
 
い。そいつはドアの前で金切り声をあげている。男は仕方なくパジャマのズボンを履き、ちぐはぐな格好でドアを開けた。外は暗い。アンパンマンのお面を被った子供がひとり立っていた。

なにかおくれよ。
アンパンマンが言う
なにもないよ。
男は言う

アンパンマンは一発舌打ちすると土足で部屋にあがり窓のあらゆる覆いを片っ端から引き剥がしてすべてを開け放った。とても寒いと男は思った。ガラガラとコアレスのトイレットロールを便所から引っ張り抜いて部屋中に散乱させた。アンパンマンは小脇に抱えた大きな缶から赤い包みの飴を1つ取り出して男にくれる。

イタズラめんどくさいんだよ、頼むよ。おじさん。
アンパンマンが言う
ガムを噛んでいる

男の下半身がスースーする。頭が痛い。猫がいつの間にか帰ってきている。息を荒くしたアンパンマンの背中を見送る。マントくらいしろよと思う。男が包みを剥がして飴を舐めると、それはリンゴ味だった。



戻る   Point(3)