いくらか体重を軽くして渡す/末下りょう
 
っていない。ネクタイは持っていない。ズボンは履かない。机の上の携帯が鳴る。非通知。ほどなく切れる。

2種類の人間像が始まりと終わりの短線の側に介在するとコメディアンが言っている。自分を自分と思わないか、それ以外か。自分はどっちかと男は考えてやめる。2種類が多すぎた。

石の彫刻みたいな合成皮革の靴を履き、粗大ゴミだった緑のソファーに男は土足で沈む。それとほぼ同時に誰かが強烈に玄関のドアを叩きはじめた。訪ねてくるものなどいないはずの部屋のドアを強烈に。家賃は滞納していない。金融機関に金も借りていない。

ノックというより破壊行為に近いそれは恐らく3分程続き、そしてまだ鎮まる気配はない。
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