旅立ち/葉leaf
何よりスーツ姿が身になじんだことに意味がある。私はたくさんの窓を通過することにより、一通り社会の通過儀礼を終えたのだった。ようやく怯えることなく余裕をもって仕事ができる。それがスーツが身になじむということだ。スーツはもはや私を拘束する脅威でもなく、私が故意に被る仮面でもなく、私の内面の深まりが余剰として外部に表れたものだ。
駅のホームは私の何もかもを見通している。私以上に私を知っていながら沈黙を守っている巨大な存在だ。このような巨大な存在が立ち続けることに、私は限りない安心を抱くのだった。
電車がやってくる。私は職場へと向かう。私はようやく旅立てる気がした。身になじんだスーツとともに、たいていの種類の窓を通過して、ようやく旅立てる。今まではすべて旅の準備にすぎなかった。これから真に旅立って行くのだ。旅の行き先は知らない。
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