【HSM参加作品】狂気の時代/イナエ
 

今 冷静に考えればおかしなことは幾つもあった
学生服のボタンが陶器に替わったのは良いとしても
疎開先の山村に棲む父の従兄の大工小屋で
兵隊さんたちが材木を使って
角形の潜望鏡のようなものを作っていた
 こんな山奥でも
  本土決戦の準備をしているのだ
体の芯から軍国少年だったぼくは
本土決戦が近いことを信じていた

しかし 
不意に顔を出した好奇心が口を開いた
 「何作ってるのですか?」
筒の中を覗き込んでいる兵隊さんが言った
 「これはねえ 秘密兵器」
その瞬間
ぼくは聞いてはならないことを聞いてしまった
見てはいけない物を見てしまった気がした
兵隊さ
[次のページ]
戻る   Point(13)