時間×距離×事情/ベンジャミン
 
繁華街のビルの壁
男はチョークを振りかざし
白い壁に白い粉を降らせていた
書いた文字はたちまち剥がれ落ち
男の足元に降り積もる

時間×距離×事情 
時間×距離×事情・・・

同じ文字ばかりずっと書いている

そうだこの計算には「=」がない
だからいつまでたっても終わらないんだ
と思って
男のすきを突いて「=」を書き込んでやった

するとどうだろう
男は白い粉になって僕の足元に崩れた
みるみるうちに膨らんでゆく

時間×距離×事情
時間×距離×事情・・・

それは膨大な量なんだ!

しまった余計なことを書き込んじまった
「=」なんて
答えを求めようなんて
僕は白い粉の中を泳ぐように進むと
ビルの壁に白いチョークを叩きつけた

時間×距離×事情
時間×距離×事情・・・

剥がれ落ちた言葉が消えてゆく
降り積もることもなく
書いても書いても書いても

これから僕はずっと書き続けるんだ
たちまち消える言葉たちを







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