拝啓 きみがいた世界へ/笹子ゆら
いるけれど、
きみの姿が心に張り付いてしまって、
いまも心が震え続けている。
ねえ、きみ。
ひとつとししたの、やさしいえがおの、おとこのこ。
頭がよくて、どこか厭世的だった、きみ。
苦しかった世界を抜け出して、どうだい。
落ち着いたかい。
やっと安心できたかな。
ああ、でもね。
聞いてくれ。
きみのいない世界は、
きみのいた世界よりも
よっぽど空虚で物足りない気がする。
これはエゴかもしれないけれど、
本当に、そうだよ。
わたしもそのうち、忘れたみたいに楽しく日々を呟くだろう。
けれど、きみに開けられた穴は、わたしが死ぬまで取っておくから。
さよなら、さよなら。
きみがいた世界。
敬具
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