その血もまもなく滅びようとしている/天野茂典
父は帰ってこなかった
後で知ることになるが
街の花柳界で板前として働いていたようだ
華やかなところだから飲む賭つ買う
生活を送っていたらしい
ぼくたちはそんな花街から遠くはなれた
田舎で母子と暮らしていた
家も何件もない荒涼とした台地だった
ぼくたちは父の帰りを待ちわびた
何日も
何週間も
何ヶ月も
父の帰りを待った
父は突然帰宅した
街のお土産を持って
そのなかでぼくは烏凧が気に入った
父を外へ誘い出し
風を待って
凧を飛ばした
父の飛ばした凧は相模野の
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