書きなずむ/
伊藤 大樹
霧のような過去がやがて…
と書きなずんで
外は雨
部屋にはキムチの匂いが充満する
ひとたび止まってしまえば
ふたたび歩きだすのは至難
ぎこちなく一歩踏みだそうとすれば
体についた花を振り払おうとした舎利弗のように
無様に愚かさを晒してしまうだろう
しずかにワルツが打たれ
雨が窓をたたき
霧のような過去がやがて…
と書きだして
ふと立ち止まる
その不意のやさしさに思わず涙ぐんだりする
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