蟹妻/チアーヌ
 

「だって、いくらなんでも奥さんが蟹になるわけないじゃないですか」
「でも、じゃあなぜ蟹がいるんだ」
「だから、それはよくわかりませんけど。あ、でもそういえばそういう小説がありましたね、朝起きたら虫になってたっていう。確か、『幼虫』とかいう」
「それ、たぶん『幼虫』じゃないだろ」
「違いましたっけ。朝起きたら、たしかカブトムシの幼虫になってるんですよ。悲惨な話だと思ったなあ」
「読んだことあるのかよ」
「ないですけど。だって怖いじゃないですか、そんな話。怪談でしょ。俺、オカルトだめなんですよ」

僕がその日、残業を終えてくたくたになって家に帰ると、水槽の中で蟹が死んでいた。
水が腐り始めていて、嫌な匂いがしていた。
与えたはずの煮干は、ほとんど食べた様子はなく、ただ水の腐敗を早めただけのようだった。
これは祐子なのだろうか。
それとも、祐子が置いていった蟹なのだろうか。
もしも祐子が蟹を置いていったのならば、なぜ祐子は蟹を置いていったのだろうか。
僕は重たい体を寝室へ運び、布団へと転げ落ちた。


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