終着駅/イナエ
夕映えにせかされ、遥かに続く未知へ踏み出す。
どこを選ぼうと、いずれ尽きることは分かっている。それまでにどれほどの道のりがあるか どのような風景があるか 知るものはいない。それは これまでの希望に満ちた出発でも同じだった。
既に薄暮に包まれた駅舎の中では 蛾が二つ三つの円をえがき始めていた。ここまで乗ってきた電車はすでに消え 鈍く光るレールも 先の方は薄暮の中に消えている。もう戻ることはできない。これからは かすかに光を発している灯だけが目標になるのだろう。ひたすら歩くことだ。自分の道を歩きつづけることだ。彼は色彩を失っていく風景の中心に 頼りなく浮かぶ白い道へ踏み出す。
不意に感じる視線。見回しても見付けることはできない。けれども これまでにも どこかで見つめている視線があったように思う。これからも きっと どこかで見つめる目があるに違いない。彼はそう確信する。 と 一歩踏み出すごとに ぼんやりしていた灯りが輝きを増してくるのを感じた。
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