終着駅/イナエ
夕陽に向かって走っていた電車が停まった。長い間揺られていた人々は立ち上がった。この先には もうレールはなかった。が 旅が終わったのではない。
ここからは ひとり 自分の足で歩く始発駅でもあった。過去の人生が詰まった荷物を背負い あるいは ベンチに残して身軽になって…
これまでに集めた荷物が、この先、歩く自分の足に役に立つのか。重荷になるのか ここは賭だ。
電車の中で知り合った人たちと交わす別れの挨拶が ひととき街のにおいを漂わせる。 出会うことはもうあるまい
それが済むと彼は出口で立ち止まり 遥かな彼方を確かめる
茫漠と広がる未体験の領域を前にして 踏み出す一歩に慎重になる。が 迫る夕映
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