公務員に成れなかったコックローチ /島中 充
かせ、先頭に立ち「行くぞ、行くぞ」と叫びながら走った。ゴキブリたちも羽を薄く開いて触覚を鞭のように振り回し急ぎ足に滑るように、若者について行く。波頭が白くみえる黒い海が彼らの眼前にいっきに広がった。月影が明るく、波に映ってちらちら月が輝いている。大きく息を吸うと磯の香りがした。ザァーザァーと聞こえ、潮騒が呼んでいると思った。彼は振り向き、拳をふりあげ砂浜で同志たちに檄を飛ばした。よだれがポタポタ砂の上に落ちた。
「君たちだ。君たちが世界を作る。未来を作る。海峡を越えろ。旅立ちだ。ああなんて幸せなんだ。」
ろれつが回らない。切れ切れの言葉になった。若者の周りを無数のゴキブリがイワシの群れのように
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