公務員に成れなかったコックローチ /島中 充
 
たちを追い出した。そしてコックローチマンの衣装に着かえることにした。同志よ!同志!と思った。書物に書かれていた人民解放軍を率いる毛沢東のような気持ちになった。今や、同じ形同じ色をした同志なのだと衣装を身にまといながら思った。涙がポタポタこぼれてしかたなかった。さあ出発だ、羽を大きくひるがえして若者はよだれを垂らしながら立ち上がった。
ゴキブリの館から東へ三百メートルのところに関門海峡の壇ノ浦があった。ここはかって平氏一族が源氏一族に滅ぼされ、女、子供までが切り裂かれ、海の藻屑となったいくさ場だ。数百の傷ついた遺体が浜に打ち上げられ、海の底に沈み、その屍に蟹が群がった。平家一族の武将の恨みが、怒り
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