思い出/生田 稔
 
 思い出

遊覧船に乗って
新婚だった妻と共に
数人の男女が目前で
騒いでいた
妻ふと船の屋外へ立つ
目前に広がる湖を
見つめていた
夏の夕であった
三七年夢のごとく過ぎ
苦しくも楽しくも
あったあの頃
もう八〇歳になった
椅子に座し
妻の服選ぶ
三着あるた服の中の
もっとも似合うもの
一緒に選ぶ
涼しい今宵
居間に在りて。 

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