記憶の怪/ただのみきや
黒曜石は砕かれた
もうずっと昔のこと
何もかも失ってちっぽけな存在だ
もとの自分がどんな形をしていたか
思い出すこともできない
以来 変わらず尖ったまま
今も誰かの指が血を流している
流木は目覚めた
どこかの浜辺(どこもそう変わりはしない)
次の大波がくるまでは砂の枕
毎日毎晩波に揺られてすっかり丸くなった
元は何だったかなんて もう どうでも
いつかすっかり無くなるさ
海と空だけは変わらないが
詩集を閉じるように夢から覚める
いくつかの印象だけが余韻を残し
あとは薄れて往く
ポケットに空いた穴からコインが落ちた
転がるコインに追いつけな
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