『戦争詩歌集事典』高崎 隆治より、戦争詩を考える。/こひもともひこ
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土民は戦火に追はれて準高原を捨てた
また追はれて嶺を越した
仮の草庵を山に結び穴居時代が甦つて来た。あらゆるものはたたきこわされ、鍋と茶碗の生活がくりひろげられていつた
戦火はここまで来た
ただもう地殻にまろび、蛙となるより外に術はなかつた。
・ブキテマ奪取戦 中野繁雄
こちらを向いて笑つたのが
最後の挨拶だつた
残る二人は
笑ひ返す遑(いとま)もなく
おい と 揺り動かす術もなく
昨夜肩をすりよせ被つた毛布に
二つの亡骸を抱き
砲弾の激流を泳ぎつつ
まだ自分らの匂ひの残つている散兵壕に
戦友を埋(い)けてゐる
(略)}
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