なあ 書いておこうか/吉原 麻
そうしないとなにも始まらないし なにも終わらない気がするから
ただ昨日のあの人について なにも言うことがないけど なにも言えないけど
たとえばしまりかかった踏切に間違ってはいりこんでしまったとき
たとえば前買ったのを忘れていて 同じ本を2冊手に入れてしまったとき
ゆるい ぬるい 落ちついたカーブを描く国道を 抜けるとき
とりかえしのつかないことという ありふれた言葉を用いるしか
僕にはできないけれど そういう感覚が おしよせる
新聞をポストに落とす音と 雀の声と
うっすら黄色の陽が カーテンを透ったら
今日がはじまって 昨日は 鍵をかけられる
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