冬の夜に一人、紙袋の中の無数の仮面と歩く/竜門勇気
午前11時半
バスに乗って学校へ向かう
ひどい朝寝坊にまだ耳の中で夢のなかの音楽が鳴っている
鳴りつづける音 瞼の裏側が膨れ上がって
空にバケツが一つ浮かんでいる
中身に憂鬱を貯めこんで
今にもひっくり返りそうに揺れてる
でも結局僕はその中を見ることはないし
もちろん浴びることもない
見つけるたびにでかくなる青い空
今にも裂けてしまいそうな
午前十二時十五分
校舎に忍び込む
影のように歩く
畦のように黙ったままで
コンクリートの壁に起きた事件は
とても興味深い
とてもとても飽きない
窓ガラスを隔てても変わらない
今にも裂けてしまいそう
向こうを歩く不穏の衣擦れを聴いた
冬の夜に一人
紙袋下げて
時々仮面を取り出して喋る
よく選べ
変な顔されたらそれは
間違った仮面で喋ったからだ
揺れるバケツ
ドラマチックな壁
紙袋の中に
仮面が一つ
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