九月某日/春日線香
都合三つの部屋は思っていたより広い
雑然と積まれたダンボール箱から
手分けして荷物を取り出していく
全員の趣味や関心が近いところにあるので
作業を進めながらも話題が途切れない
子供の頃から読み続けている作家について
あの映画化は失敗だったとか
復刊して本当に驚いたとか
未完で終わったシリーズのことなど
天気予報は曇り時々雨
なんとか作業を終える目処がつき
一段落したところで休憩にする
お茶を飲みながら菓子をつまんでいると
外で天気雨が降り始めた
結婚のタイミングで狐の嫁入りだなんて
できすぎで笑ってしまうが
そういうものなのかもしれない
降り始めと同じように唐突に降り止む
いつかこの瞬間のことも
消えていくのだろうが
水気を含んだ風が吹き抜けて
真新しいレースのカーテンを揺らす
差しこむ日差しが床に波を作る
二人と他一人が
波打ち際を眺めている
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