左手の記憶/
畠中ゆたか
一人、また一人と降りて行き
電車の中は広くなった
小刻みな揺れに運ばれながら
私は左手を弄んでいる
親指と人差し指を擦る
昨日の君を覚えている
けれど輪郭を掴もうとすると
霧のように消えてしまう
透き通る曲線
光る産毛
蠢く唇
柔和な笑み
違う、これは再構成された君だ
たった一晩
君を保存しておけない
電車が止まり扉が開くと
左手は通勤鞄を握り
君のことを忘れてしまった
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