『秋の夜長』/hahen
 
死んでいくのさ。夜にだけぼくたちに見えるようになる星々というのは、そのひとつひとつが、死んでいった大人たちの眼球だ。そしてぼくたちは、眠らなければならない。

いくばくか気を楽にできるから、植物たちも夜はやわらかく露に濡れるまま。上がったり下がったりしている星空から(いや、ぼくたちのほうか、わからないけれど)何十億もの視線が突き立つ。夜虫の声は遠く、近く、重奏が大気に壁をつくり、きみを閉じこめていた。ずっと、ずっと。
眠れないきみはいつしか巨きく、高くなっていくだろう。ぼくはそんな光景をいつもカンヴァスに描いては、消して、また気付いたら描いていた。小さな窓を遮断していた網戸を開け放つと、虫の鳴き声がよく聞こえて、こんなにもぼくたちは繊細で馬鹿馬鹿しいのかとおどろいた。

ここは果てじゃない
中心でもない
どこでもない場所だけが
集まって
初めてそこは特定される
きみはどこ?
大きな振れ幅の
ぼくたちを殺したい
ゆりかごの回転の中
ぼくたちはいつだって新しい

きみのこえが、ききたい。

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