秋・湿傷/ただのみきや
 
雨 いつのまにか
静かな吐息のように 
染まりはじめた黄葉から
ひとつ ふたつ しずく おち
中空(なかぞら)はしっとりして
往くトンボたち
ゆるやかに すこし乱れて


  青い海へ沈んで往くあなた
  平和な国で殺されたあなた
  乾いた銃声が容易く奪った
  把握されない数も知れない
  あなたわたしでないあなた


別世界とでも言おうか まるで
  いくらでも近く
    いくらでも遠く
居れるだろう 心腫らすのみで
  いくらでも近く
    いくらでも遠く
現実と情報 ずぶ濡れになって


雨 ざわめきだし
節くれだった枯木からも
ひとふたみつしずくつらなれば
逃げそびれた
トンボふるえ
広すぎる空に往き場なく



             《秋・湿傷:2015年9月21日》




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