夏越しの約束/そらの珊瑚
 
この風を知っている
そんな気がするのは
夏を生き延びた生き物たちすべてが
その手をつないでいるからかもしれない

地球のどこかで生まれて
地球を何億回も旅をして
悲しみの涙を流す人のほほを
乾かすこともあっただろう
或いはひとりさいごをむかえようとしている人の
わずかに残った体温を奪ってゆくこともあっただろう

葉がゆれる
朝露がこぼれる
雲が運ばれてゆく
ただそれだけのことに風の存在を見い出す

透明であることはいいね
見えないのに
在るということを
信じることが出来るから
世界のどこかの戦火から生まれた風が
光る稲穂をそよがせてゆく
亡国の魂のような君を知っている
ふたたび
私は約束を思い出して
この手をつなぐ


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