空の蝋燭/木立 悟
 




千歳の少女の誕生日を
誰も祝うものはない
一匹の蟻を避けて
十匹の蟻を踏む
淡く巨きな
泡のなかの午後


手を振るたびに
いのち以外に満ち
暗い街の背後の山から
ゆらりと煙の羽が降る


朝の径を
黒い樹々が歩いてゆく
一杯の水
あたたかな手
昼の遺跡をすぎ
なお歩きゆく


無数の虫の放つ
麻酔の弾に当たり
空に持ち上げられながら
穴だらけの眠りを眠る
夕べさえまだ遠いのに


千歳の少女が
湖の底を見つめている
千の蝋燭が
空に燃えている
気付くもの無く
燃えている


ドレスはどこへいっただろう

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