その、木/北井戸 あや子
 
その木はずっと見つめていた

なにも言わずに見つめていた

荒れた土地が整理され
人や動物が住みだし
生活がつくられていく様子を

爆弾が落ちて
焼け野原になり
それでも息を吹き返し
やがてまた噎せ返る程の人間で溢れかえり
人知れず落とされ
ほどけるように消えていく生命を
やわらかに積み上がる亡骸の輪郭を

その木はずっと見つめていた

作業着を着た人間が自分を切り倒す最期の瞬間まで


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