その、木/
北井戸 あや子
その木はずっと見つめていた
なにも言わずに見つめていた
荒れた土地が整理され
人や動物が住みだし
生活がつくられていく様子を
爆弾が落ちて
焼け野原になり
それでも息を吹き返し
やがてまた噎せ返る程の人間で溢れかえり
人知れず落とされ
ほどけるように消えていく生命を
やわらかに積み上がる亡骸の輪郭を
その木はずっと見つめていた
作業着を着た人間が自分を切り倒す最期の瞬間まで
戻る
編
削
Point
(4)