『忘れる』/hahen
る間に頭上に漂っていた雲が全て彼方へと消えた。膨張している。引き伸ばされている。それは逆行だろうか。見たこともないほど濃い群青色が近づいてくる。長く生活した街の風景をもう一度眺めていた。ちらちらと真昼の照明が震える。産み落とされてからは誰の手を借りることもなく稼働していた小学校のチャイムがまた鳴っている。同族が死ぬ光景を目の前で見てしまったときのように冷静に。安らかで均一なメロディに乗って眠るように静かに墜落していく星をぼくはうつくしいと思った。
それからぼくたちは絶え
海になった。
空が笑っている
名前も知らない君は
もういない、
けれど海はぼくたち、
ではなく。暢気な声で
それはどういうことだい、と
指摘を受けたとき
海は火花になる。
いっぺんに気化した水蒸気が凝結せずに爆ぜて、塩辛く、
ここにいないのはいつだって、
海は空になる
海は砂漠になる
水底にあった砂地は世界を飲めるだけの容量を確保していた、
人の肌を焼き尽くしてなお余りある
凄まじい光熱の閃光が、新しい正午を迎えて、
新しい君となるんだろう。
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