ペンギン/光冨郁也
一年に一度だけ、
わたしと母は、海草をとりに、
江ノ島に向かう、
その途中に、枯れ木の門がある。
昔、「厚生病院」と呼ばれた場所の前を、
母の運転する車で通る。
信号待ちで、助手席から、
裏庭はどこかと目で追う。
車窓にはりついた、
すねたペンギンのグッズが、景色の中に浮かぶ。
少年だったわたしは、
病院の裏庭で、
たったひとりで、
ウルトラマンの人形をもって、
笑いながら走り回り、
(あの曇った空を)
飛ぼうとすることに熱中した。
母が、急性の腎不全で入院し、
わたしは、ヒーローの人形を片手に、
父の手を、もう片手に、
強く握り締めながら、
母の
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