線/大覚アキラ
 

土地の代わりに富を手にしたが
はんたいに
騙されて土地を失う者や
線の引き方のいざこざで命を落とす者もいた

そのうちに
こっそりと線を引きなおして土地を広げる者や
力ずくで線を引きなおす者が現れはじめ
ぼくたちは線を守るために
夜も安心して眠れなくなってしまった

線を踏み越えた者は
子どもであろうと容赦なく殺され
誰もが線のために人を疑い
誰もが線のために人を殺し
誰もが線のために命を賭けた

そんな繰り返しに
ぼくたちが疲れきったある日
雨が降った
雨は何日も降り続き
あたりは水浸しになった

数週間にわたって降り続いた雨が上がると
線はすべて
きれいに消えてしまっていて
ぼくたちは為す術もなく
あたり一面のぬかるみの中で
ただ呆然と立ち尽くしていた

やがて一人の幼い子どもが
落ちていた棒切れを拾い上げ
ぬかるんだ地面に一本の線を引いた
子どもはつたない手つきで
その線に葉と花びらを描いた

ぬかるみに描かれた一輪の花が
太陽を浴びて輝くのを眺めながら
ぼくたちは
ようやく微笑むことを思い出した
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