絶景/吉岡ペペロ
音がする。まだ秋虫などいるはずもないのにちいさな虫が鳴くような声がきこえる。
あの日は弟の住む町の商店街で待ち合わせをした。
途方もないほど長い商店街なのに弟と歩いているとすぐ歩ききってしまう。自然と手をつないでいた。商店街をさっき来たほうへ戻っていたらロールケーキ屋さんが目にはいった。人通りに向かってケーキをつくるひとがガラスで仕切られていてそれを見ようとふたりで近づいた。スポンジに生クリームをぬってそのうえにまたスポンジを重ねて生クリームをぬって、その手際よさに弟は感心した。あたしは弟の腕にしがみつきながらかがんで見ていた。ガラスの向こうの職人さんはあたしたちに一瞥もくれなかった。端をそろ
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