絶景/吉岡ペペロ
 
あたしはぼんやりと窓辺に腰かけて木々のあいだに滲んでいる薄いオレンジいろを見つめていた。
母がいなくなった日もふつうに夕方がきていたことを思い出す。
小学生のとき母が出て行った。あたしと弟を残して逃げて行った。
あたしは母を探しにはいかなかった。今こうしているみたいに焦点の合わせづらい夕方を見つめながら父や弟の帰りを待っていた。
あたしが住むアパートの周りは森みたいになっていて、知らないひとが遠くから見ると神社かなにかと見まちがうだろう。
緑が多ければ癒されるというのはうそだ。あたしにはこの家で癒されたという記憶がない。たとえば夏の昼間、緑は濃くて暗くてこの世に取り残された憂鬱の残骸のよ
[次のページ]
戻る   Point(3)