S姉さん/あおい満月
した。原因は、関東と関西の文化の違い、Tの親との同居を拒否した結果だったとS姉さんは言っていたが、私のせいなのかもしれない。私があの夜、あんな言葉を吐いてしまったから。それからというものS姉さんは、何だか荒々しくなった。電話でも「世の中で一番面倒くさいのは人間なんだよ」などと言ってきたり、なんだか魔女みたいに感じられた。今でも覚えているが電話の向こうのS姉さんの笑い声が黒い鴉の羽根のようで寒気がした。「世の中で一番面倒くさいのは人間」何が彼女をそこまで変えたのか。そのとき私は僅かに悟った。S姉さんははじめから黒かったのではと。黒い鴉の羽根をどこかに持っていて、それを歯の後ろに隠していたのではと。そういえばいつもS姉さんの写真の中の目は暗かった。動きのない暗さ。笑っていても、おどけていても。熱によって左右される金属のような。熱が私、T、あるいは、ヴォーカリストのKだったのかもしれない。それから私たちは、疎遠になった。今では番号もメールアドレスも知らない。ただ、夏と、S姉さんの誕生日10月19日がやって来るたび、今でも胸が痛む。すべては私のせいなのか。なくしたものは、もう戻らない。
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