口紅/あおい満月
そして、春夏秋冬、色を使い分けること。だから私は今ではちょっとした口紅コレクターである。新宿で働くようになってから、化粧品は私の必需品になっている。とは言っても、あまり高くない月給から購入するので、そう頻繁には買えないけれど。
口紅を選ぶ感覚は、学生時代、油絵の具を買うために選んでいた感覚に似ている。油絵の具は、青ひとつ取っても、数十種類ある。色が織りなす絵画の世界を堪能していた中学・高校時代、ゴッホやゴーギャンのような静物画ばかり描いていた。点描という筆遣いが好きで、あまり人付き合いが得意ではなかった学生時代の心の隙間を埋めるように、キャンバスの中を絵の具でいっぱいにした。
一個人の世界を強く求められる大人の世界に入った今は、こうして自分に楽しみを与えながら生きている。けれど、時々ふと、一抹の寂しさを想うのは、戻らない愛のせいなのか。 降り続く秋雨の冷たさなのか。
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