野分/藤原絵理子
 

真っ黒に日焼けした たくましい腕
「健診でひっかかって…」 屈託なく話した
野球部の監督をしている 彼の日常は
夏休みを返上で ノックバットを振っていたはずだ


風が澄み始めた 今年も秋は近い
街路樹の葉に ころころと光がこぼれる
嵐の前触れ 青い田にうねりを作って
稜線をくっきり見せる 山並みに向かって


予定より随分早く 手術室から戻った同僚が
何も言わずに肩をすくめた 少し
悔しそうな目で 紙コップにコーヒーを注いだ


遠い山際を走る電車が 一瞬 夕陽を反射する
家路をたどる 当たり前の日常を乗せて走っていく
「秋だねえ」 どちらからともなく つぶやく

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