ホットミルク/愛心
 
不眠症の彼に、ホットミルクを淹れるのがわたしの仕事だった。






ある夜をきっかけに、彼は眠ることを忘れたという。
どんなに体が疲れていても、睡魔は彼には訪れず、ねばつくような夜の闇の中で、ぼんやりと空を見ているのだと。
「眠いけど眠れないんだ」
珈琲の匂いを含んで呟いて、殆ど吸わない煙草に噎せていた。

彼のはつらつとした表情は、だんだん老人の顔に似たものになり、涙袋には夜空を溶いたような隈ができるようになった。

彼はわたしに気にせず眠るようにと言うけれど、愛した人を放って、自分だけ逃げるような真似はできず

せめてもの慰みに
ホットミルクを淹れるように
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