叔父さんに/イナエ
今年も八月が終わります。
もう、命日の回向すらありません。
でも…
* * *
色褪せたフェルトで覆われたアルバム
生まれたばかりの従妹を抱いた叔母と
傍らに笑顔の叔父が立っている一枚の写真
今度の空襲はぼくらの住む町だと言う
密かな噂に促されて
母とぼくがリュックサックを背負い
風呂敷包みをひとつずつ抱えて
郊外の小さな祠の草むらで寒さに震えていた夏の夜
叔父の住む街の空が赤く焼け
B29であろう爆撃機が赤い灯を点滅させて
一機 一機 空に軌道があるかのように
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