「平和の夕べ」コンサート/そらの珊瑚
 

そんな残虐なことがあったなんて、と戦争を知らない私は衝撃を受け胸が痛くなるけれど、やはり知らなければいけないのだと思う。知り、学ぶことで平和への祈り、平和を求めてやまない思いは強くなるからだ。

私の席は二階の後ろの方だったが、そこからもアルゲリッチの強靭な、それでいて、それだからこそ、鍵盤を打つしなやかな手の動きが見て取れた。ここへたどりつくまでの音楽家の積み上げてきた人生までもが体現されたようなしらべであった。
二千人近くの聴衆のおそらくはそのほとんどが、それをみつめていたのではないか。
痛み、畏れ、素晴らしい音楽。感動。そして祈り。
祈りが無力だなんてそんなことは決して、決して、ないのです、と彼女のピアノから聴こえてくるようだった。

平和であれば音楽はこんなにも崇高で美しいのだ。

コンサートは終わり、明るくなったさきほどの奇妙な空間に、私には見えない誰か(命)が座っていたような気がした。
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