風は、いつも 不意に/南無一
 


風は、いつも 不意に 訪れる

閉め忘れた 窓の スキマから

予感さえ なく

クリーム色の 壁の 棲み家に

押し込められた 日常

拘縮した生と 隣合わせの死の

めざめと 眠りを

飽くことなく 繰り返し

消失する記憶の 恐怖に 怯えながら

諦めたことさえ 想い出せない

時間も 場所も 意味さえも

蝶のように 捕えられない

風は、いつも 不意に 訪れる

遮光カーテンの 重い裾を 

かすかに 揺らして

昏い 沈黙の夜が

透明な夢を ひきつれて

やがて おりてくる

黒く縁どられた 真四角の窓が 

淡い オレンジ色の 燭火に 染まり

今わの際の生が

かなしみの 影絵を 描く



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