母の願い/
南無一
昨日、犬を 殺してきましたと
あなたは言った。
あまりにかわいそうなので
殺しましたと。
母以外の他人には けして 懐かない
犬でした。
夏には きゅうりを丸齧りしていた
犬でした。
明日は、自分が死ぬ番だ。
そしたら、犬の骸と一緒に 焼いてくれと
あなたは 言った。
それから三年、母は長生きした。
墓地のかたすみに埋められた 犬の骸は
すっかり骨になったろう。
あの日に母の願いは、叶えられなかったが
今日、母と犬は、同じ土に埋められた。
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