苦い昼。/梓ゆい
手を当てて暖めようとしても
冷たい頬は硬いまま。
閉じた目を開こうと話し掛けても
名前を呼ぶ返事は無い。
「お父さん、おはよう。」
朝起きた私はいつものように
挨拶をする。
「お耳は最後まで聞こえます。いつものように、話しかけてあげてください。」
昨日の夜
葬儀屋は手を組んでそう言った。
卓袱台に置いた携帯電話
いつものように声が聞きたくて発信ボタンを押したのに
五回目のコールの後
無機質な音声へと切り替わる。
「お父さん・お父さん。雪がやんだよ。お父さん・お父さん。明日は晴れるそうだよ。」
ほんの微かに寝息が聞こえたようで
高い鼻先で耳を澄ます。
「お父さん・お父さん。今日の昼は、久しぶりのカレーライスだよ。」
鍋のカレーが無くなりかけた午後13時過ぎ
父の手の甲に霜が降りた。
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