不機嫌な魚たち/南無一
水族館の水槽のうえには空がない。
魚たちは 時折
水面に顔を出して 見上げてみるが
コンクリートの暗い天井が見えるだけだ。
ここは魚たちが生まれた海ではない。
水族館生まれの魚たちにとっても
ほんとの住処ではない。
だから魚たちは いつも不機嫌な顔をして
水槽の中を 右往左往している。
その不安げな目は
この狭い水槽の中に閉じ込められたまま
死んでいくことを懼れている。
そして 水槽の中を
あっちこっちと泳ぎながら
ガラス越しに人間たちの眼に出会うたびに
腐りかけた目玉から真水の泪を落とす。
そんな魚たちの泳ぎを
厚いガラス越しに眺めながら
わたし自身が
水槽の中に 囚われているような
気がしてくる。
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