ふと/南無一
人は なぜか
ふと
思いつくことがある
仕事の帰り道 疲れた躰を 運びながら
ふと
夕暮れの空を 見上げて
金曜日の夜 スナックで ふざけながら
酔いつぶれた その 陽気な笑いの中で
ふと
人は なぜか
ふと
目覚めることがある
もしかしたら、
おれは何か重大な思い違いをしているのかもしれない
と
しかし それは ほんの 一瞬の
ふと
にすぎない
次の瞬間には また 重い足取りで
ふざけた陽気な笑いの中に紛れ込んで
なおも 酔いつぶれる
しかし やがて そんな ふと が
おぼろげに それでも はっきりと
人の心の澱みに忍び込み
そっと 爪痕を 残してゆく
自分にさえ気づかぬ 爪痕。
そんな ふと を 無意識につづけながら
人は なおも 生きていくのだ
死ぬときに気づくだろう
そんな ふと というものの かすかな爪痕に
自分の躰が ずたずたに
切り裂かれていることを・・・。
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